学生から質問を受けたとき、皆さんはどんなことを考えて答えていますか。
ここでは「AとBは何が違いますか」という質問をベースに自分の思考回路を紹介します。
(授業外での質問を想定しています。授業内の場合は少し工程が変わります。)
今答えられるかどうか
質問を受けてまず一番に考えるのが、意味や用法ではなく質問に答えられる状況かどうかです。
本当はいついかなる時でも質問に答えたいですが、いかんせんそうもいかないときはどうしてもあります。
また答えられるにしても、どのぐらいの時間を回答に割けるかというのも大切になりますよね。
どうしても答えられないような状況だったらこの段階で「ごめんなさい。後でもいいですか」「~~が終ったら答えますね」などお断りを入れます。
いつこたえられるか全く見通しが立たないような本当に立て込んでいるときは「しっかり調べてから答えますね」みたいにその場をしのいでから改めて回答の機会を設けます。
学生のレベルなど確認
時々全く知らない学習者から質問を受けることもあります。
一度教室に知らない学生がいて
私:誰ですか…
学生:私の友達!日本語が上手ですよ。
学生の友人?:初めまして。私はもうすぐ日本へ行きます。すみませんが、 AとBは何が違いますか 。
↑こんな状況がありました。
さすがに学外の学生さんだったので丁重に退出をお願いして終わりにしましたが、もし答えるとすれば学生の学習レベルや使用教材などできれば確認したいですよね。
こんな極点な例は本当にまれですが、担当外のクラスの学生から質問を受けたりするとある程度の確認作業がいります。
- 学生のクラス・担当の先生
- 学生の性格・レベル
- 質問内容
まずはクラスと先生を確認します。必要なら後で担当の先生のほうに共有したほうがいい場合もありますし、ほかの先生が質問に答えることを極端に嫌う先生もたまにいます。なじみがある先生の学生なら教え方の癖や方針を考慮して回答しますし、新人の先生の場合はあとで授業準備に支障をきたさないよう気を付けるときもあります。
その後、簡単な会話をはさんで学生の人となりや日本語レベルを確認します。ほんのわずかな時間なので詳しいことまでは把握できませんが、ワンクッション入れたほうが後の回答にも説得力が増す気がします。
もう一つ、質問の内容と書きましたが、回答してもいい質問なのかどうかはっきりさせたほうがいいと思います。例えば自力で解いてほしいタイプの宿題から質問しているなら答えないほうがいいですよね。次の授業で担当の先生からの解説が間違いなくあるはずですし、学生の考える機会を奪ってしまうことになります。またカリキュラム上、先に教えてしまうと次の授業の意味が薄れたり、クラス運営で面倒になるような質問であれば回答を避けることもあるかもしれません。
何が違うと思う?
諸々の確認が終っていざ回答!となったら、私はまず学生に「何が違うと思いますか」とか「例文を3つくらい考えてみて」みたいに一緒に考えようという方向で進めます。
完全に受身で答えを聞くより積極的に参加する姿勢があるほうが、こちらも教えやすいのと日本語力が向上しやすいためです。学生が自ら得られる気づきに勝る学習はないということですね。
と、それらしいことを口実にして自分が考える時間を確保します。
正直いきなり質問されても先生だってわからないんだ…。
意味の違い
学生が一人でうんうん考えている間にこちらも回答の準備をします。
まず最初に意味に違いがないか考えます。
明らかに意味に違いがあればすぐに回答できますね。それぞれの意味を正しく(できれば簡略的に)導入し直せばいいだけです。
ただし、質問に来るということは学生個人で解決できなかった疑問ということですから、そんなに簡単には解決しません。
文法上の違い
次に考えるのが文法上の違いがあるかどうかです。
例えばAはイ形容詞でBはナ形容詞のような違いがあればひとまず回答はできそうですよね。あとは接続の仕方や助詞のとり方など違いがないか考えます。
文法上の違いははっきり回答しやすいですし、学生もあっさり納得してくれたりします。この説明だけで分かりましたーと帰っていく学生も多いです。ただし、意味や用法についてもちゃんと考えたうえで説明すべきことはしなければいけないですし、そもそも文法からのアプローチでは回答できない場合もあります。
用法、使用例の違い
次に用法、使用例に違いについて考えてみます。
例えば「お疲れ様です」と「ご苦労様です」、「ぼく」と「おれ」だったら話し手の立場・意識を示したり、「女の人」と「女性」だったら使用状況・場面から切り込んでみたりします。
↑の例は簡単な部類なのでそんなに困りませんが、もう少し込み入ったものだと「少し」「ちょっと」「少々」「多少」とか「理由」「わけ」「きっかけ」「動機」とかすぐに違いを判別するのが難しいものもあります。
そんな時は同じ例文にそれぞれ当てはめてみて、違和感があるものを探し出して、その違和感の原因を探します。
- 少し待ってください
- ちょっと待ってください
- 少々待ってください
- 多少待ってください
↑の中だと「少々」と「多少」に違和感がある気がするのでどうしてかなと考える感じです。
慣れないうちは例文の選定、当てはめる作業、違和感探し、原因究明のどの工程も手間がかかります。
この作業を効率よくできるかどうかというのも日本語教師の素養の一つかもしれません。
回答・説明する
回答できる目処がたったら、学生の意見も聞きながら何が違うのか説明してあげましょう。
口頭で簡単に説明できればそれに越したことはないですが、必要であれば絵、写真など普段の授業で用いるような教材を使ったり、ちょっとした寸劇を披露したりしてミニ授業が始まることもよくあります。
また、学生のほうでも例文を考えたり、違いを考えてくれていたはずなのでちゃんと確認してあげてください。このタイミングで根本的な間違いが発覚することもあるので要注意です。
学生が納得したら簡易的な後件作文や例文作成を改めてやらせてみて、ちゃんと理解できているかチェックします。
どうしてもわからないとき
どれだけ考えても全く回答の見当がつかないときは素直に謝ります。
日本語教師とはいえ何でもかんでも即答できるわけではなく、事前の準備ありきの仕事ですから質問に答えられなかったからといって恥じることはないと思います。
「ごめんなさい。ちゃんと調べてから教えるので明日また話しましょう」みたいに伝えれば、変な風に思う学生はあんまりいません。ちゃんと参考書をあたったり、先輩に聞いてみるなどして改めて教えてあげるようにしましょう。
まとめ
授業外での質問の場合は業務状況などで回答できないときもありますが、質問を受けた以上は責任をもって最大限答えるようにしています。
担当したことがないレベル、教えたことがない文法や単語の質問だと戦慄が走りますが、うまく答えられた時の達成感は病みつきですよ。